デービッド・アトキンソンの著書「新・観光立国論」を読みました

読んだ本

デービッド・アトキンソン 新・観光立国論
デービッド・アトキンソンの著書「新・観光立国論」を読みました。めちゃくちゃ面白かった。すごく読みやすくてすぐに読み終わりました。

デービッド・アトキンソン

著者は日本に25年住んでいるイギリス人で、元ゴールドマンサックスアナリスト。GDPは主に人口によって決まるという前提に基づき、人口激減時代に突入し経済成長が見込めなく、さらに欧州のように移民を受け入れられるメンタリティでもない日本が今後GDPを上げるには短期的な移民=外国人観光客を増やすしかないという内容を、アナリストらしく客観的なデータに基づき淡々と解説してくれている。日本の現状や勘違いを鮮やかにぶった切っているのだけど、きちんと根拠を提示して説明してくれるのでぐうの音もでない。観光従事者だけじゃなく全ての日本人が読むべき本かもしれない。

日本は「観光後進国」

まず、知らなかったのが日本が「観光後進国」であるという事実。街中で外国人観光客が増えているし、メディアではよく訪日観光客が1,300万人突破とかいかにも多いように報じられているけど、これは日本のポテンシャルを考慮すると驚くほど少ない数字だという。日本は、観光立国の4条件である「気候」「自然」「文化」「食事」を全て満たす稀な国であるにもかかわらず、そのポテンシャルを生かせていないそうです。著者はこれを宝の持ち腐れと表現し、何度も繰り返しもったいないと言ってくれていますが、その原因として、当の日本人がそのポテンシャルを正しく認識しておらず、これまで観光業に力を入れてこなかったこと(観光業に力を入れなくても工業などで勝負できた)からその理解に乏しく、外国人にアピールできていない点を指摘しています。日本がセールスポイントとなると勘違いしている「治安のよさ」「サービス」「気配り」などは、外国人観光客がわざわざ飛行機に乗って日本を訪れる動機にならないとバッサリ切っています。冷静に考えればそりゃそうですよね。自分だってそんなの目当てにわざわざ外国旅行行かないし。ちなみに東京オリンピック誘致のための日本で話題になった滝川クリステルの演説「お・も・て・な・し」演説も、日本では大絶賛だったけど、あの区切ったような語りかけ方は海外では子供を諭すように聞こえる言い方で、見下した態度ととられるそうです。そもそもおもてなしも日本が思っているほど世界から注目されていないので、日本を訪れる動機にはならないと。国際観光客到着数ランキングでも上位に食い込めていない日本が、世界に向かって上から目線でホスピタリティをアピールするなんて実力が伴ってなくてようするに恥ずかしいということです。

客に「おもてなし」をほめられたとき、謙虚に「とんでもないことです」などと否定する精神も、日本人の美徳なのではないでしょうか。

もっともすぎて何も言えません。テレビ番組でも日本はすごい的な自画自賛番組が多いですよね。

ヨーロッパからの「上客」が来ない問題

現在日本を訪れている観光客はほとんど近辺のアジアの周辺国からがメインで、第5位にようやくアメリカがランクインしているそうです。観光にお金を使うヨーロッパやオーストラリアからの「上客」が来ていないことが大問題だと指摘しています。質の高い観光客とはここでは国が遠いから一度の滞在日数が長く、かつ観光に惜しみなくお金を使う人たちのこと。この人たちの声に耳を傾けて、訪れてもらえるように体制を整えるのが重要にもかかわらず、残念ながらこの人たちが訪れたいと思ってくれるようなサービスを提供できてないのが現状の日本だそうです。

問題点たくさん

成田空港の入国カウンターは外国人向けが圧倒的に少ない、空港からのアクセスもよくない(成田エクスプレスは最終便が到着する前に終わってしまう)、交通機関の値段が高い、現金主義でクレジットカード使えない、歴史的建造物の説明・展示が不十分で外国人が理解できない、超富裕層向けの高級ホテルが少ない、、などなど他にも問題点がたくさん指摘されていて、どれもごもっともでした。個人的にはベンチが少ないっていうのも地味にかなり共感しました。でも著者は、逆に言えばこれだけ伸びしろがあるんだとポジティブな言い方もしてくれています。具体的な対策案もあげてくれています。例えば、圧倒的に多い無料のガイドではなく、有料のガイドにしてきちんと質の良いサービスにお金を落としてもらうとか。もっと稼ぐことを意識すべきと繰り返し説いています。外国人観光客が来るようになってから整備するのではなくて、整備すれば上客は必ずやってくるんだと。

感想

それにしても著者は日本に25年住んでいるとはいえ、こんなにわかりやすい日本語で本が執筆できるなんてすごいと思いました。文中で、日本人の編集者にチェックしてもらっていると言及していますが、それでもすごい。「日本について批判していると思われるかもしれませんがそうではなく・・・」と何度も前置きしていますがそんな前置きしなくてもまったく嫌味に聞こえる表現もなく、別に冷たいと感じることもなかったです。

日本は既得権益者が牛耳っている国で変化を拒む性質にあるし、今時の世界の常識とずれていることもたくさんある。この本に書かれている観光立国として成功するための「整備」ができるんでしょうか。読みながら少し暗い気持ちにもなりました。世界からどんどん日本が取り残されていくのを見るのはつらい。東京オリンピックを控える日本は正念場とも言えますが、どうなるんだろう。

この本は面白くて2回読みました。同じくデービッド・アトキンソンの「新・所得倍増論」も早く読みたいです。

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